ソニー・ライフケア特別対談 Vol.1 出井学×薗田宏 2018年新春対談(1/2)

2017年の振り返りと、プラウドライフのソニー・ライフケアグループ入りの意味

更新日:2018年02月28日

2017年の振り返りと、プラウドライフのソニー・ライフケアグループ入りの意味 ソニー・ライフケアグループ特別対談

(写真右)ソニー・ライフケア株式会社、ライフケアデザイン株式会社 代表取締役社長 出井 学
(写真左)プラウドライフ株式会社 代表取締役社長 薗田 宏

"はなことば"シリーズを運営するプラウドライフが、ソニー・ライフケアのグループに入り、初めて迎える新年。ソニー・ライフケアおよびライフケアデザインの出井社長とプラウドライフの薗田社長が対談。その様子を前・後半2回に分けてお届けします。
前半はこの年末年始に経験したこと、介護現場の「働き方改革」、そして両社が一つになった2017年について振り返りました。

上記インタビューは2018年1月17日に行われたものです。内容は取材当時のものです。

高齢化とスタッフに思いを巡らせた年末年始。お二人はこの年末年始をどう過ごされましたか?

出井

はい。私は長野・松本市の実家に母がいますので、年末年始は母のもとで、年越しをしました。古い家なのでかなり寒いのですが、地元に住み続ける母にとっては慣れたもので、あまり気にしていないようです。私はその寒さの中で、スマートフォンを見ながら、ホームの状況を気にかけつつ過ごしていました。

年明け早々に、川崎の妻の実家にも顔を出し、箱根駅伝のテレビ中継を見ながら過ごし、4日から仕事を始めました。

薗田

私も妻も地元は神奈川の相模原で、年明けは親戚がみんな集まって、ワイワイと過ごしました。私も出井さんと同じく、スマートフォンをチラチラ見ながらでしたが、幸いにも心配だったインフルエンザも蔓延せず、安心して過ごすことができました。

そのような中で、仕事に関連していくつか考えさせられることがありました。大晦日に、隣駅にある昔ながらの居酒屋に家族で食事に行きました。老夫婦が切り盛りするその店は、年越しそばが無料でふるまわれ得した気分でしたが(笑)、そこでびっくりするような光景があったのです。

なんと、70~80代ぐらいの男性の一人客が15名ほど、お客さんとしてそこにいたのです。皆さんお一人なので、それぞれ黙って酒の肴をつまみながらお酒をちびちび飲み、大晦日のテレビを見ているという状況は、ある意味衝撃的でした。

出井

それは考えさせられる光景ですね。

薗田

ええ。その情景を目の当たりにして、大晦日にこうやって一人居酒屋で過ごすのと、ホームで仲間とワイワイガヤガヤして過ごすのと、どちらが幸せなのだろうかと考えさせられました。

ヘルパーをやっていた私の妻などは、「来年はバイトに来ようかしら」などと申しておりましたが(笑)

もう一つは、飲食店やスーパーなど早仕舞いする店が一時より増えたということ。実際に「働き方改革」が始まっているんだなということを実感するとともに、ホームで働くスタッフのご苦労に想いをはせました。

最近「働き方改革」というキーワードがメディアに取り上げられています。介護現場での「働き方改革」についてお二人のお考えをお聞かせいただけますか。

出井

2016年にソナーレ祖師ヶ谷大蔵(東京都世田谷区)をオープンする時に、募集人員の3.5倍の方が応募してくださいました。新しい施設では、募集人員より多めの応募があるものですが、それを上回る方が来てくださった事を見ても、私達の「Life Focus」(ライフフォーカス)という理念を共有してくださる方々が集まったと考えています。

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このような意識の高い方々だからでしょうが、実際の業務オペレーションに落とし込んでいくプロセスの中で、理想と現実のギャップに直面して悶々としてくるものです。問題意識が高いということは良いことで、常に考えて改善していくという意識を持つということは大切です。逆に、忙しさにかまけて思考停止してしまうような職場になってはならないと感じています。

ソナーレ祖師ヶ谷大蔵をオープンして約2年、ちょうどその時期が来つつあると認識しています。介護の現場では、一口に効率化と行っても、良い効率化と悪い効率化があります。たとえばソナーレでは「持ち上げない介護」を標ぼうして、リフト機器(注1)などを導入していますが、これがどういう意味を持つのかを考えてほしいと思っています。ご入居者の拘縮(こうしゅく)(注2)を防ぐ効果とか、介護スタッフの腰痛対策によって労働環境を改善する事などを目的で導入したわけです。しかし、リフト機器を使わないほうが、時間を減らす事ができるから効率的だと考えてしまうと、本来の目的が損なわれ、結果としてご入居者の満足度も落ちてしまいます。

注1...ベッドから車椅子への移乗時に、リフトと呼ばれる福祉器具を利用しています。詳しくは「持ち上げない介護」(http://www.lifecaredesign.co.jp/quality/no-lift/)をご覧ください。
注2...関節が硬くなり、動きづらい状態。人力で行う介助が、介助される側の自然な動きを遮り、筋肉の緊張を引き起こすことがあります。

効率化によって生まれた時間をどうサービスに落とし込むのか、現場の努力・知恵の出しどころ次第で、「良い効率化」となるのか、「悪い効率化」になってしまうのかが決まります。何のために、何をやるのか、やっているのかを常に考えない現場には、質の改善はないと思っています。

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薗田

働くスタッフ自身が、いかに働きやすい環境を作るのか、作れるのか?を考えることが、介護における「働き方改革」のポイントだと、私は考えています。介護の仕事は、24時間365日、年末年始も交代であたらなくてはならない。これは変えようがありません。しかし、働きやすくするためのやりくりを自分たち自身で考えて、変えて行くことは可能です。

私は介護の現場出身なのでよくわかりますが、介護に携わる方々は、皆さんハートフルで思いが強い。そして、理念があり共感する力を持っています。与えられた環境で頑張る力も持っています。しかし、理想とギャップがあった時、その課題を人任せにしてしまう人が非常に多い。みんなにとって良くないことだと分かりつつ、誰かがなんとかしてくれるだろう、という「他責の念」をもった人が多いのも事実です。

そこで、日頃の研修を通して、課題に対してどう乗り越えるのか、よりよいサービスを提供するにはどうすればいいのかを自分たちで考え行動するということを、気づかせ、意識付けさせるということを行っています。

もちろん、本質的に、会社が悪い、上司が悪い、環境が悪いということもあるでしょう。それを改善するのは、私たち経営層の責任です。しかし、現場の課題と改善は、自分たちの役割だ、という意識を持ち、お互いの役割を全うし合うことで、自分たちの目指す会社・チームを作って行きたいと思っています。

2017年を振り返ってみて

2017年はプラウドライフがソニー・ライフケアグループに加わった年でしたが、お二人から見て、どんな一年でしたか?

出井

ライフケアデザインで言えば、2016年の祖師ヶ谷大蔵に続き、「ソナーレ」シリーズ2つ目のホームとして、ソナーレ浦和(さいたま市浦和区)がオープンしたことが大きなトピックスです。そもそも浦和という地域はすでに多数の有料老人ホームがあり、激戦区だと言われていました。しかし、ソニーのマーケティング発想で調査してみると、「ソナーレ」のターゲット層である「アッパーミドル」層のニーズを満たすホームが存在しないということがわかり、進出を決めました。

開設から半年余り、想定していたとおりの顧客層の方々から「待っていました」という声も多く、ご入居者の人数も着実に推移しています。特に、手厚い医療連携による安心感を提供でき、ホームの提案力が実験できたと思います。その一方で、比較的介護度の重い方を受け入れるということで、初めから業務オペレーションに負荷がかかったという点は、改善すべき点と認識しています。いずれの面でも、今後の新設ホームの展開に生かせる試金石になったホームと言えるでしょう。

グループ全体では、やはりプラウドライフがグループの一員になったことも大きなトピックスです。5~6年前から当時の経営者の方々と意見交換を始め、すべてのホームを見学させていただきました。いずれのホームでもスタッフの方が元気に挨拶してくれて、行き届いた教育に、サービスレベルの高さを感じ、これなら、ぜひグループに参加してほしいと考えた次第です。

アッパーミドル層をターゲットにした「ソナーレ」に対し、「はなことば」はボリュームゾーンをターゲットにしているので、サービスの価格帯は異なります。ですが、サービスレベルの納得感という意味では、いずれも質を語れるレベルにあると思います。

先日も「はなことば戸塚」(横浜市戸塚区)のホームを訪問しましたが、こちらのほうが気持ちをシャキッとさせられる元気なスタッフの挨拶に、グループに加わってもらって良かったと改めて思いました。

以前あった経営の課題も、現場の発想を活かしながらコンパクトな経営を目指す薗田さんを筆頭とした現体制の努力で、経営状況も改善されており、今後に期待を寄せています。

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薗田

正直、経営を引き継いでからのこの2年間は、体制変更を含めて大変な時間でした。その中で、ソニー・ライフケアグループ傘下に入り、存続の危機から脱したことはとても大きなことでした。

ソニー・ライフケアグループ入りは、「中小のオーナー企業」の経営から、ガバナンス、コンプライアンスといった、企業のあるべき姿への変革もありました。これまでの口頭ベースの仕事の進め方から、記録を残すエビデンスベースの進め方になり、正直、大変になった部分もありますが、健全な経営ができるようになったというのは、お客様・スタッフにとってとても大切なことだと思います。

ホームの運営に関してはこれまで通り、私たちに任せていただいている点はとてもありがたいことだと思います。プレッシャーもありますが、ソニー・ライフケアグループの一員として、スタートラインに立ったという気持ちを大切にしていきたいと思います。

当社はこれまでいくつかの企業に分かれていました。今回、ソニー・ライフケアグループ入りした際に一社にまとめたことを第二の創業期として、社名をプラウドライフに変え、「はなことば」のブランドロゴを変えました。新しい会社、ブランド作りにあたっては、出井さん、そしてソニー㈱からも支援をいただきました。ソニーのデザインを担う部門、クリエイティブセンターの力を借りつつ、みんなのこだわりを形にできたのはとても良かったと思います。

また、この4月からはユニフォームも一新します。ご入居者が戦中・戦後の方々から団塊の世代に変わりつつあり、ご入居者の意識も変わっていく中、私たちも変わっていくべきと考えたからです。新ユニフォームは、「脱介護」をキーワードに、お客様の「お住まい」のスタッフとしてふさわしいユニフォームに仕立て上がりました。ぜひ楽しみにしてほしいと思います。